漱石書簡集
特に明治34年のあたりのものを興味深く読んだ。
「僕はね、留学生になって何も所得はない。少しは進歩したと思って考えて見ても(ママ)心が許さんから仕方がない。自惚るより少しはよいかも知れぬ。」
「近頃は英学者なんてものになるのは馬鹿らしいような感じがする。何か人のためや国のために出来そうなものだとボンヤリ考えている。こんな人間は外に沢山あるだろう。」
「学問をやるならコスモポリタンなものに限り候。英文学なんかは縁の下の力持、日本へ帰っても英吉利におってもあたまの上がる瀬は無之候。小生のようなちょっと生意気になりたがるものの見せしめにはよき修行に候。君なんかは大に専門の物理学でしっかりやり給え。」
こうして並べると、かの巨人も悩み多き青年期を送っていたことがわかり少し親しみが湧いてくる。